SharePoint ユーザ企業活用事例レポート001：営業ポータル

SharePoint 2010による営業ポータル。
担当者自身の手による外観カスタマイズでCSMとしての特性を活かす

大手メーカーH社の国際営業セクションでは、従来、各部署が独自でHTML（PHP）によるイントラWebサイトを運用していたが、2011年に三営業部署共同で SharePoint 2010 を導入。およそ1000人の海外セールス担当に向けた営業ポータル（英語）を運用している。

営業ポータルは全セールスむけ内容をトップに、その配下に各部署独自ポータルという構造（いちサイトコレクション）。あくまで管理セクション（日本の本社）から現場への一方向な情報提供ではあるが、情報整理やレイアウトの工夫で、セールス担当が日々の業務で必要とする情報をタイムリーに得られるよう配慮している。

全体ポータルの更新は本社担当者、サブポータルは各部署の担当がになう。従来のイントラサイトでは、部署担当の技術力やリソースに依存しがちだったが、SharePoint を利用する事で更新が容易にになり、また技術力に起因する差がなくなった。

H社ではIISログを解析し、アクティブユーザ数を計測しているが、現時点でのアクティブユーザ（継続的にポータルを閲覧しているセールス担当者）率は60％を越える。リリースから半年という期間も勘案すると、これはかなりの高率だ。H社の営業ポータルが、ターゲットとするエンドユーザにとり実際に「役に立つ」ものであることが伺える。

ただし、決して特別なコンテンツがある訳ではない。トップページに配置されているのは全体連絡掲示板、トップメッセージ（写真付き）、資料庫（ライブラリ）、自社プレスリリース（RSS）、リンク集など、ポータルとしてはむしろ定番な内容である。高い活用度の秘訣は継続的な更新に加えて、見やすいレイアウトの工夫にあるようだ。

当初、H社では完全に標準状態の SharePoint 2010 でポータルを構築していた。これには明確な意図（開発費用や後の運用・アップグレードを勘案した総合的判断）があったものの、「セールス現場への情報発信」というポータルの主旨に鑑み、デザイン（外観、ルック＆フィール）のみカスタマイズすることにした。ただし、カスタマイズ作業は外部企業に開発委託せず、H社担当者（ SharePoint のデザインカスタマイズ講習を受講）が自身の手で行っている。

カスタマイズ内容そのものは、SharePoint Designer によるマスタページのカスタマイズ、CSSによるスタイルの上書き、JavaScript による一部コンテンツの動的制御など、基本の範疇だ（CSSのしめるウェイトが大きい）。しかし「セールス担当が見易く、使い易く、しかしシステムに大幅なカスタマイズは加えない」という点で一貫した工夫がなされている。

例えば、各ポータルサイトは同一の外観（構成）に統一されている一方、サイト毎に異なるCSSを読み込むことでベースカラーを変更し、エンドユーザが「どのポータルを参照しているか」を視覚的にわかりやすくしている。また各サイトの左サイドメニューは、JavaScript によりサイト毎に異なる表示がされるよう設計されている。

カスタマイズを社内担当者が行うことで、試行錯誤をくりかえし、スピーディにポータルをブラッシュアップできることが、H社営業ポータルの強みになっている。取材させて頂いた際も、新たな取組みとして「双方向の情報交流を行うコミュニティ・サイト」が試作されていた。各部署担当者へのコンテンツ運用委任も含め、SharePoint の Web CMS（コンテンツマネージメントシステム）としての特性を活かした優れた例と言えるだろう。

もちろん、こうした担当の育成には時間がかかるし、本人の素養に拠る部分も少なくない。また担当者が技術的に特化すればする程、後任者の選任には苦労することになるだろう。カスタマイズも「やり過ぎ（業務効果が小さいが難易度の高い開発に多くの時間を投入してしまう）」ないよう常に配慮が必要だが、これも技術的・ビジネス的センスが問われるところだ。如何にこうしたノウハウをSharePoint担当個人に埋没させず、組織として蓄積、バックアップ体制を整えることができるかが、今後のポイントになるのではないだろうか。